『まって、まって、ロナルドくん、まって』
ぐい、と肩を押されてロナルドは手の動きを止めた。
遮光カーテンが閉められた暗い部屋の中。ソファの上でドラルクを押し倒した体勢のまま、くしゃりと顔を歪ませる。
「……やっぱ、むり、だよな…ごめん…」
ドラルクのシャツを掴んだ手を緩めると、昼の空色の瞳がじわりと水の膜を張る。
「…ごめん…」
『わー!違う!ちがう!そうじゃない!早とちりするな!』
「でも待ってって…」
『君の腕力でシャツが引きちぎられそうだからタイムっていったんだ!いいから泣くな。ステイだステイ!』
ぐすりと泣き出すロナルドを宥めつつ、ドラルクはシャツの首元からゆっくりとボタンを外していく。暗くてよく見えないけど、目の前で恐らくえっちなことをしているのが分かり更にびえんと泣いた。
「えっちなことすんなよおおおおお」
『ええい!うるさい!このシャツ買ったばかりなんだ。破られてたまるか……ほら、もういいからおいで……』
するり、とドラルクが首に腕を回すと、ロナルドはゴクリと喉を鳴らした。汗ばむ手のひらを露わになった血色の悪い胸元に当て、撫でる。
『……ふふ、くすぐった……』
「お前……冷たいな」
『君は熱いね』
左胸辺りで僅かな鼓動を感じ手を止める。じわり、とロナルドの体温が移っていき、とくん、とくん、という鼓動に合わせるように温度が同じになっていく。
「心臓……」
『一応あるからね。人間のとはちょっと違うけど』
「でも、動いてる」
『生きてるからねえ。見たければ出してみる?』
「……出せるのか?」
『砂になれば』
「じゃあ、いい」
掌を胸に乗せたまま、ロナルドは上体を曲げると頬に擦り寄った。まるで猫が甘えるようなその仕草に、ドラルクはなんとなく気恥ずかしくなる。
「ドラ公」
『ん?』
「好きだ」
合わせた頬が少しだけ熱い気がした。胸に当てられた掌も再びロナルドの方が温度が高くなる。
それがとても愛しく思えて、ドラルクは回した腕に少しだけ力を込めた。
『うん。私も愛してるよ。ロナルドくん』
ゆっくりとロナルドの顔が上がる。
触れた唇が震えていたのを、ドラルクにバカにされるのはまた数年後の話。