乾いた唇

そっと合わせた唇は、少しだけ乾いていた。

「どらるく」
僅かに触れたままで、その唇が私の名前を紡ぐ。
今度はその下唇を食むように動かすと、は、と小さな吐息が漏れた。
「どらるく」
ぎゅ、と服の袖口を掴まれる。手を動かして指を絡め、軽く握ると握り返される。ああ、愛しい。なんてじわりと胸の奥がむずかゆくなる。
「ドラルク」
『なに?ロナルドくん?』
顔を離し青い瞳を見つめると、僅かにだけれど期待に揺れていて。言いたいことも、欲しいものもわかってはいるけど。反面、意地悪くもしたくなる。
頬にキスをして、絡めた指をゆっくりと撫で、言葉を待った。
「……………………………………………………今日は、意地悪なのかよ」
『ふはっ、何それ。どうかなぁ。君次第かな』
「意地悪な、顔してる……どうせ意地悪すんなら縛るとかすればいいのに」
『うーん。それもいいけど、君の場合縄も鎖も引きちぎっちゃうしね』
「命令してくれたら千切るのやめるぜ?」
『そういうの好きだよね。でも、今日は…そうだな…君がもういいっていうくらい甘やかしていじめたい気分かもしれない』
「ふーん…甘やかす、ねぇ」
『私の下で泣いて、とろとろにとろけて、もっともっとって強請る君は魅力的だからね。酷くして悦ばせるのは、また今度ね?』
「……なぁ。ドラルク」
「うん?」
「好きだぜ」
不意打ち。
そんな、甘い声どこからでた?普段の不遜な君はどこいった。
飾ったり、回りくどいことをしない言葉は、ストンと私の心臓を突き刺す。銀の弾丸なんかより、こっちのほうが効く。
甘やかされることに納得したの?
多分今君が思ってるよりも、とろとろに溶かしてしまう予定なんだけども。
『うん。私も、君が大切で大事で、大好きだよ』
指先から伝わる温度が心地よい。
まっすぐに刺さった言葉も心地よい。
普段聞かないような甘い声色も、心地よい。
『好きだよ、ロナルドくん』
私の言葉はどうなんだろう。
君の心は、どう動いているんだろう。
愛してるも、大好きも、毎日毎日言っているのにそれが分からないままでいる。
君はいつもそれを笑って受け入れるだけだから。
『あいしてるよ』
「ふは、しってる」
楽しそうに笑う君にゆっくりと顔を近付けて。
触れた唇は、やはり少し乾いている気がした。