その銀糸は、窓から差し込む月の光によっていつもより輝いていて。仕事柄、見目を整えているのは知っているから、恐らくまめに手入れされているのだろう。キラキラと絹糸のように光っても見える。
ベッドの上、穏やかな顔で寝ているロナルドの姿に、ドラルクはわずかに笑みを浮かべた。
今日は中々に大変な退治仕事だったらしい。城に訪れた時点でロナルドはわかりやすく疲れていた。自宅に帰って静かに寝ればよかったのにと思わなくもないが、それでもこうして訪れてくれることに愛しさを感じる。食事を与えて、風呂に入らせて、このまま寝かせようとしたところで甘えるようなキスをされた。
しないのかよ。そういって上目遣いにあの青い瞳に見つめられてしまえば、断る理由なんてなかった。ともすれば最中に寝てしまうのではないかと思ったし、それも致し方ないとは思っていたがそれはなかった。
触れて、囁いて、いつもより少ない回数ではあったがしっかりと熱を吐き出して。
気を失うようにロナルドは意識を手放した。
まだ夜明けには遠い。いつも気を張ったように見据えている瞳は伏せられていて、微かに表情も緩んでいるように思える。
「……ロナルドくん?」
名前を呼んでみるも目を覚まさない。熟睡のようだ。
窓から降り注ぐ月明かりはしっかりとその顔にあたっていて、眩しくないのかとドラルクはなんとなくロナルドの顔の上に手を翳した。
先程涙を流した目元が少しだけ赤い。肌理の細かい肌に、そっと指先だけ触れた。
「ろなるど、くん」
起きる気配はやはりない。
起こしたいわけでもないからと、ドラルクはそっと銀糸に指先を伸ばし、綺麗なそれをするりと撫でる。
触り心地の良さに目を細めると、寝息を立てるその頬にそっとキスを一つ。
「おやすみ、私の眠り姫」
ふふ、と笑ってそう言うと、再び頬にキスを。
しかしその頬は先ほどとは異なり、僅かに赤みを帯びていて。
「ふふ、かわいいね」
「……だれが、ねむりひめだ……ばーか」
青い瞳が、ドラルクを真っ直ぐに見つめ、再び伏せられる。
「寝るの?ロナルドくん?」
「……ねる…おまえのせいで、つかれた……」
「誘ったのは君じゃないか」
「乗ったお前が、わるい…」
「…もう一回する?」
「っ!!」
「ふふ。かぁわいい」
「っ、…かじゃねぇの…、まあ、でも…」
モゾモゾとシーツの中からロナルドは腕を引き出して、ドラルクへと伸ばした。
その手を取ったドラルクは、掌に口づけて頬に当てる。
「でも?」
「……キスくらいはゆるしてやるよ…、俺は眠り姫じゃねえから、目が覚めるかはわかんねえけど……」
試すように目を細めて笑うロナルドに、自然とドラルクの口端が上がる。
掴んだ手に指を絡めて、ゆっくりと顔を近づけた。
鼻先を軽くすり合わせて、くすぐったそうに片目を細めたロナルドの肩に残る傷跡をそっと撫でて。
「…そう。じゃあ、キスしようかな…」
そう言うと、薄く開いたロナルドの唇にそっと口づけた。
夜が明けるまでは、まだ。