私のものだ

退治人なんて仕事は、人気商売である。
だから衣装も個性が出るように目立つように、各自が自分専用のものを着用していたりもする。
週ヴァンみたいな専門週刊誌もあれば、時折一般の雑誌にも各地の有名退治人として出たりもすることがあるらしい。
そんな中、ロナルドくんはやはり特殊だった。
作家としての一面もある為、メディアへの露出は他の人たちより多いのは知っていた。オータムの意向としては見目よりは作品で売りたいという所もあり、サイン会以外の露出は出版社としてのメリットがある時のみが基本らしいが、それでもどうしてもロナルドくんに出てもらわないといけない場面もある。
それが、『こういうやつ』だ。
ソファに座り、膝に乗せた雑誌の一ページを指でトントンと叩く。そこには、某アパレルブランドのスーツを着たロナルドくんの写真があった。
しかも取材とかのグラビアではない。アパレルブランドの広告として、だ。
どうやらアパレルブランドが今度オータムと企画して何かを出版するらしい。あのオータムが珍しいこともするものだ。
そんな中でブランドの担当者からどうしてもと頼まれたらしい。
一枚だけ、一回だけ。そんな言葉にあの若造はいつもの様に『俺がなにかできるなら』と引き受けてしまった。15年経ってもあのお人好しは何も変わってない。
そして、出来上がったのがこの一枚だ。
ビル街を歩くスーツを着たロナルドくんの全身写真。少しだけ髪は後ろに撫でつけられていて、流行りの眼鏡を掛けている。長い銀糸の睫毛は僅かに伏せられて影をつけている。出会った頃より僅かに年齢を重ねた整ったあの顔立ちは、並大抵のモデルだって敵わないだろう。
そして、あの私が育て上げた体躯に纏うスーツ。
ガッシリとした無駄のない筋肉、体のラインが僅かに出るそのスーツは悔しいけどとても似合っていた。
ぶっちゃけ、カッコイイ。認めよう。流石私の男だ。完璧すぎる。
が、いい気はしない。
これを聞きつけた他の馬鹿どもが、同じような依頼をしてこないとも限らない。オータム側はもう絶対に受けないと言っていたが、本人があれだ。何年経ってもお人好しの、あの若造だ。
いつ同じことがあるか分からない。
もやり、とする気持ちを抑えようと雑誌を閉じて軽く瞼を閉じると、玄関が開いた。
「ただいま……っと、何してんだ?ドラ公?」
「…おかえり。今日は何も出なかったのか?」
「おー、パトロールだけして、後から来たサテツたちと交代した」
「ふぅん。何か食べるかね?」
「腹減ったー…って、あれ、その雑誌」
「出したものは片付けろ…今から準備するから手を洗って風呂入ってこい」
ソファの後ろから覗き込んできたロナルドくんに雑誌を押し付けると、立ち上がってエプロンをつける。私の言葉に「おう…」と返事をしたロナルドくんは雑誌を片付けると、少しなにか考えた後に洗面所に向かった。
冷蔵庫から焼くだけにしてあった夜食の材料を取り出し、フライパンを取り出す。火をつけようとした所で「ドラ公」と呼ばれた。
「なんだね、風呂に」
「もうやらねーよ、ああいうの」
「……なんだ、急に…私は別に」
「お前が嫌がってんの知ってるから、もうやらねえ」
「だから私は別に」
「拗ねてるくせに」
近づいてきたロナルドくんは、コンロの火を付けようとした私の手を掴み後ろから抱きしめてくる。
「……君は、私のだろう…」
「ん、だからもうしない。だから機嫌直せって」
ちゅ、と後ろから頬にキスされて何だか気恥ずかしくなった。
こんなふうにまっすぐに愛情表現してくるようになったのは、いつからだったか。昔は照れて直ぐに殴ってきたくせに。
「…ロナルドくん」
「んー?」
「キスするなら、ちゃんと口にして」
腰を捻って少し顔を近づけて。
そんな我儘を言ってみる。こういう我儘を言えるようになったのはいつからだったっけ。多分、ロナルドくんと同じくらいだった気がする。
「ふは、分かった。本当かわいいな、お前」
「うるさい。ばか」
グイ、と腰を抱かれて、静かに目を閉じた。